浜菊

 

先日「2011皇室スペシャル」という番組があった。 冒頭天皇陛下と皇后様が皇居の中に咲く白い浜菊の前を散策する場面が放映された。 両殿下が是非この浜菊の前でと希望された場面だという。 画面は変わり、東日本大震災を視察する自衛隊ヘリコプタの中、陛下は「私達が泊まったホテルはどうなりましたか?」と質問された。 このとき頭の中を過ぎるものがあった。 以前三陸海岸を旅行したとき、あるホテルに泊まった。 ロビーには赤いモールに繫がった金色のポールに仕切られて、机と椅子が置かれていた。 ホテルの説明は無かったが、両陛下が宿泊されたとき使われた調度だと聞いた。 岩手県上閉伊郡大槌町浪板海岸にある浪板観光ホテルである。 両殿下がこのホテルの窓の先に白いものを見つけて「あれは何か?」と質問され、ホテルは「浜菊です。」と答えたという。 翌朝両陛下は浜に出られ、この花を摘んで皇居に植えられた。 冒頭の場面は、両陛下から被災者への「津波に襲われた三陸海岸の花は、ここで生き延びていますよ。」というメッセージだったのだ。

浪板観光ホテルは寄せる波はあっても返す波がないという珍しい砂浜に面して、景色の良い宿として知られていた。 だが立地条件の良さが災いして、大津波に飲み込まれた。 宿泊客はホテルの従業員の誘導で高台に逃げたため全員無事だったが、最後までホテルに残った社長は今でも行方不明のままだ。 助かった秋田の団体客は、ホテルの機敏な対応に感謝して地元でホテル再建の募金活動をしているという。 TVの報道や民間の活動を伝え聞いた常務は、廃業は止むを得ないと思っていたが、番組の中で「もう一度やり直してみる。」と決意を述べていた。 一階と二階が津波の直撃を受けて柱が曲がっているため、建て直しが必要だという。 前途は多難である。

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